30Sep2020sweet Filling 9空を染める赤色を、えみりはタクシーの窓から睨んでいた。右足首が、酷く痛む。シートに足をあげることもできず、タイヤが段差を越えるたび、えみりは声にならない悲鳴をあげた。その都度運転手はルームミラーでえみりを見たが、自宅マンションに着く頃には興味を示さなくなっていた。カフェではスツー...
29Sep2020sweet Filling 8翌日の日曜日、えみりは洗面台でシャンプーをして、身体をお湯で濡らしたタオルで念入りに拭いた。右足の指に挟まった砂も、歯を食いしばって拭った。髪を整え終わるころにはヘトヘトになり、床に座り込んでしまっていたが、それでも冷凍していた食パンを焼いて、水道水で鎮痛剤を流し込んだ。もちろん...
28Sep2020sweet Filling 7「ほんとにありがとうございました、まゆも色々ありがとう」「ほんとにお部屋まで行かなくて大丈夫?」自宅マンションの前で車を停めてもらったえみりはここで大丈夫、と笑顔で応えた。途中、寄ってもらったコンビニのトイレで入れた坐薬が効いたのか、幾分か痛みはマシになっていた。簡単に食べられる...
27Sep2020seeet Filling 6診察室で改めて自分の右足首を見てえみりは小さく悲鳴をあげた。昨日より更に腫れ上がった足首は紫や赤黒く内出血し、それが自分の身体の一部だとは到底思えなかった。指ははち切れそうなほど腫れ、甲は異様な艶があるようにも見えた。「うーん…腫れが退かないとなんとも言えないねー。ほんとは早くギ...
26Sep2020sweet Filling 5「だいぶ、痛む?」「ううん、全然」紹介された自宅近くの整形外科の待合室で、まゆは赤く腫らした目で、えみりをまっすぐに見つめた。膝を伸ばせる車椅子を借りて足を上げていると少し痛みがマシになった気がした。土曜日の午前中の病院は、人で溢れかえっていた。まゆの母親が送迎してくれるとのこと...
25Sep2020sweet Filling 4「狭くて悪いけど、後ろに乗って足上げて」近いはずの最寄りのコンビニが、ひどく遠く感じられる。やっとの思いでたどり着いた頃にはえみりはじっとり汗を掻いていた。ガラスに映る松葉杖抱えた自分を睨みつける。厳重に包帯を巻かれた右足が通るボトムスを持っておらず、仕方なく履いたロングスカート...
24Sep2020sweet Filling 3ごりっ!ぶちぃぃぃ!!!!気持ちの悪い音が身体の中で響いた。「うあ“あ“あ”!!!!!!!」咆哮のような叫び声がエントランスに響き渡る。右足首に、雷に打たれたかのような激しい痛みが走った。「ううううぅああああ……!!!」なんとか食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れてしまう。血の気...
23Sep2020sweet Filling 2不意に、甘いタバコの匂いがした。「シャワー…」そう呟くと帰り際、ハセガワに半ば強引に引き留められ巻かれた包帯を、えみりはゆっくりと解く。包帯がはらはらと足首から離れていく。なぜか目頭が熱くなった。幸いにも足首の痛みは落ち着いてきている。熱を持った足首に触れると、ハセガワの手の温度...
22Sep2020sweet Filling 1「はあ、つまんない」えみりは口癖のようになった言葉を呟いた。この1週間、テストため勉強に追われていた。空腹感で集中できなくなり、コーヒーでも飲もうかとリビングに出た。湯が沸くまでの間、SNSを開くが、特段興味を唆られるものはなかった。スマホを投げ出し、ソファに寝転んだ。えみりは母...