KagoMe 1
「おかえりなさい」
そう言って夫の稔を玄関で迎え入れたゆりの右足首には包帯が巻かれていた。
「その足、どうしたんだ!?」
稔は血相を変えてゆりの足元にしゃがみ込む。
「今日お買い物に行ったらひねっちゃって…少し痛いくらいだから、湿布だけ貼ったの。剥がれてきちゃうから包帯で留めてるだけ」
「ちゃんと病院に行かないとダメだろ?何かあったらどうするんだ。ほら、おぶさって。歩くなんてもってのほかだ」
稔は、ゆりをソファーまで運ぶと右足をオットマンに乗せた。
「本当に大したことないの。心配かけてごめんなさい。夕飯の準備するわ」
そう言ってゆりは立ち上がろうとする。
「いたっ…」
足首に力を入れると痛みが走った。
「みるから横になって」
ゆりはすぐにベッドに連れて行かれてしまう。稔は薬剤師で、ある程度の知識はあった。ゆりが横になると稔は包帯を解き始めた。湿布を剥がすと僅かに内出血があるくらいで腫れはなかった。
「どこが痛むんだ?」
稔はゆりの足首をゆっくり捻る。
「痛い痛いっ!!!」
内側に曲げられると、強い痛みがあった。突然の痛みに涙がにじむ。
「やっぱり靭帯が傷ついてるんじゃないか。病院に行こう」
「大丈夫、だから…。明日になってまだ痛むようなら行くわ」
涙を拭いながら言うゆりに、稔はしぶしぶ頷いた。
その晩は結局、夕飯の片付けや入浴も許されず、簡単にシャワーを済ませたゆりは、稔に言われるがまま横になっていた。安静にしていれば痛みはほとんどなく、ゆりは稔の過保護さに正直呆れていた。
結婚して3年。8歳年上の稔はゆりのことになると大袈裟なほど心配をし、口を出してきた。しかしゆりは、それを前向きに捉え、愛が故のものだと思うようにしている。
「俺は仕事があるから。何かあったら呼ぶんだぞ」
そう言って寝室を出て行く稔を見送ると、ゆりはすぐに眠りについた。
「いやあああああああ!!!!!!!」
突然足首を襲った激痛にゆりは泣き叫び飛び起きた。右の足首が燃えるように痛む。
「いや、痛かったか。ごめんごめん」
目を凝らすと足元に稔が立っていた。ゆりの右足首は稔の両手の中にあった。
「痛がってうなされていたから、少し様子を見ようと思って…」
そう言って稔が少しずつゆりの足首をひねっていく。
「やめて…!!いたっ…」
ゆりは咄嗟に右足を引っ込める。
「かわいそうに…今日はもう寝よう。おやすみ」
そう言って稔はゆりの横に入り、すぐに寝息を立て始めた。
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