KagoMe 2
「あああぁ…」
足首は鼓動に合わせて痛み、ゆりはなかなか寝付くことができずにいた。稔が寝返りを打ちベッドが揺れると、先ほどまではなかった痛みが足首に走った。ゆりはほとんど眠れず、そのまま朝を迎えた。
「痛い…」
ベッドに腰掛け、ゆっくりと右足に体重をかけた。昨晩よりも内出血が広がり、くるぶしの下の辺りが腫れていた。しかし稔に知られれば、また大騒ぎになってしまう。ゆりは何食わぬ顔で稔に朝食をとらせ、送り出した。
「どうしよう…」
稔が駅方向に歩いて行ったのを確認するとリビングのソファーに倒れこむように腰かけた。立っていると足先に血液が集まり、どくどくと痛んだ。肘掛けにそっと右足を乗せると少し痛みが和らぐ。眠気を感じ、ゆりは目を閉じた。
メールの着信音で目が覚めた。稔から無理はしていないかという確認のメールだった。夕食は稔が帰りに購入してくるらしい。簡単に返事を返すと、洗濯物を干そうとベランダに目をやった。
「あれ…?」
ベランダの掃き出し窓にかかっているカーテンのフックが外れていた。ゆりは右足を引きずりながらダイニングチェアを運ぶと、ゆっくりと昇った。
「よいっしょっと…」
カーテンに手を伸ばした瞬間、足元がぐらつき、バランスを崩してしまう。
“ぶちいいいいぃ!!!!”
「いぎゃやああああああ!!!!!」
生々しい音が響き、同時に経験したことのないような痛みが右足首を襲った。猛烈な痛みで吐き気と悪寒がする。 ゆりは身体の下敷きになってしまっていた右足を何とか引き抜く。足首は内側に折れ曲がったまま、腫れあがっていた。内出血もひどく、どす黒くなっている。
「ああああああうう…!!!!!」
耐え難い痛みに、ゆりは稔に助けを求めた。電話はすぐにつながった。
「どうかしたか?」
「…椅子から、落ちてしまって…」
「なんだって!?大丈夫か!」
「あ、足が…」
「すぐに帰るから!!」
稔が電話を切る音を聞くと、ゆりは気を失った。
「ゆり!!!しっかりしろ!」
駆けつけた稔が肩に触れただけで激しい痛みが足首を貫いた。
「これはひどいな…」
そうつぶやくと稔はそのまま、ゆりの足首を掴み、力を入れていく。
「やめでええええええ!!!いだいいい!!」
めりめりっと気持ちの悪い感触が足首に響く。稔はすぐにゆりを車で病院に連れていった。稔は少しでもゆりが痛がらないよう、段差では速度を落とし、病院に着いてからも車椅子を借りに走った。
「う゛ぁああああああああ!!!!いだいよおおお!!!!!助げでええええ!」
ゆりはレントゲン室で足首を捻ら、想像以上の痛みに泣き叫んだ。検査の結果、右足首の外側にある靭帯が2本断裂していることが分かった。腫れが酷く、すぐにギプス固定ができないため、添え木と包帯でガッチリと固定された。幾重にも包帯を巻かれたゆりの右足は、白い塊のようになってしまった。絶対に右足に体重をかけないようにと言われ松葉杖を渡されたが、歩く振動だけでも酷く痛み、自宅に帰り着いた頃には脂汗と涙でゆりの顔はぐちゃぐちゃになっていた。
横になりクッションに足を乗せると、稔がその上にアイスノンを置いてくれた。僅かに痛みが引くのを感じたが、指先まで紫色に腫れ上がり熱を持った右足首は燃えるように痛み、時折鋭利な刃物で刺されるような激痛が走った。 稔はゆりの汗をぬぐい、アイスノンを1時間ごとに取り替えた。痛みに耐えかねてゆりが呻き声を上げると、まるで子どもをあやすかのようにゆりに寄り添った。
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