SNS Cinderella 1


日奈子はひどく後悔していた。

今日は久々のオフで、ひとりカフェでのんびりした時間を過ごした。メディアへの露出はまだ少ないが、読者モデル時代からの根強いファンに支えられて、モデルとして生活していけるようなってきた矢先の失態。しかもモデル生命を脅かす可能性も大いにある。

小さな仕事が重なって中々自分の時間を取れていなかった日奈子は、今日は自分にご褒美をあげる1日にしようと決めていた。

そんな日奈子にファンが気づき、“ひなちゃん大丈夫かなー(´;Д;`)”という呟きとともに日奈子の写真をあげたのだった。

写真に写っていたのは、羽織ったカーディガンの下からしっかりと包帯が巻かれた右腕が覗き、それを左手で少しかばう様にして歩く日奈子だった。帽子を被り、サングラスにマスクという格好だが、特定されてしまったようだ。
そのツイートには日奈子を心配する声が寄せられ続けている。

今まで誰にも相談できず隠し続けてきたフェチがこんな形でバレるなんて…

もちろん日奈子はどこにも怪我などしていない。
ただ、ささやかなご褒美のはずだった。
しかしこうなってしまった以上、放っておくわけにもいかず日奈子は頭を抱えていた。

自爆?階段から落ちる?でも、右手だけを怪我するのって…
打撲でも内出血が酷くて痛みが強いって言えば、固定くらい…
今までに“自爆 骨折”そんなワードを幾度となく検索してきた。簡単で確実な方法などないことは分かっていたが、落ちつくはずもなく、調べずにはいられなかった。


「ダイレクトメッセージ?」

日奈子はケータイの音で我に返った。見知らぬ相手からのDM。


“突然失礼します。あなたの怪我、フェイクですよね?”


長くはない文章だったが日奈子は画面のその文字から目を離すことができずに、背中を嫌な汗が伝ったのを感じた。

無意識のうちに脚の付け根を力いっぱいつねりあげる。過度なストレスを感じると自傷せずにはいられなくなる。どんな衣装でも下着の中に隠れる部位を執拗に痛めつける癖は止めようと思ってもエスカレートするばかりだった。


“フェイクってどういうことですか?”


ファンからの個人的なDMには返事をしないことに決めていたが、躊躇わず返信した。奥歯がカチカチと鳴った。


“あなたは身体的な怪我はしていないという意味です。”


終わった…今どんなふうに足掻こうと、この現実からは逃げられない。明日の仕事も、私の人生も。
続けてメッセージが届く。



“でも僕なら力になれると思います。中央区の守谷クリニックに今から来ませんか?”



Silent White Moon

bantage,cast...and pain

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