seeet Filling 6


診察室で改めて自分の右足首を見てえみりは小さく悲鳴をあげた。
昨日より更に腫れ上がった足首は紫や赤黒く内出血し、それが自分の身体の一部だとは到底思えなかった。指ははち切れそうなほど腫れ、甲は異様な艶があるようにも見えた。

「うーん…腫れが退かないとなんとも言えないねー。ほんとは早くギプス固定したいんだけど、学校はしばらく休んで、足は常に挙げておいてね。薬は効いてる?あれだったら坐薬出しとくから、自分で難しそうだったらお母さんにでも入れてもらうように」

初老の女医はPC画面に向かって話し続けている。

「学校には…」

えみりの声は、女医には届いていないようだった。

「シャワーは当分禁止だからね。ギプス巻けるまで我慢して。松葉杖はうちでも貸し出ししてるから。足には絶対体重をかけないこと。それにしても腫れが酷いし、もしかしたら剥離骨折してるかもねえ。手術した方が手っ取り早いんだけどスポーツはしてないよね、細すぎるよ。ダイエットもいいけど成長期なんだからさ。生理も来てないんじゃないの」

「生理は…ちゃんと…」

「じゃあまた月曜日にでも来て。次は友だちじゃなくてお母さんと来てね。手術の説明もしないといけないし。えっと、湿布貼ってしっかり固定で、坐薬もあれだったら入れて」

機械的な手つきで、他の医師が固定をした。坐薬を入れるか尋ねられたが、もちろん断った。



「あ、お疲れ様。先生、なんて?」

待合室に戻ると、まゆは英単語帳をバックにしまいながら言った。立ち上がり、腰かけようと向きを変えるえみりの背中をそっと支える。

「ありがと。…良くわかんないけど、とりあえず様子見みたい…安静にしろって。でも昨日よりはだいぶ良くなったから、月曜日は学校行っていいって。若いから、治るの早いってびっくりされちゃった」

「…そっか、早く楽になったらいいね。えみりが元気ないと、わがまま言えないし」

「そうだね、右足以外は元気だけどわがままは当分禁止」

2人はクスクスと笑いあってからまゆが代わりに会計に立ち、薬局にも出向いてくれた。
えみりはその間終始俯きがちで、鼻を赤くしていた。今ここで泣いてはいけない。まゆに、これ以上心配をかけるわけにはいかない。


「まゆ、またえみりちゃん困らせてたんでしょ、ごめんねいつも」

車に戻ると、すかさずまゆの母親がえみりに言った。

「いえ、今日はぜんぜん」

「今日は、って!いつも困ってるの?まゆに?」

「はいはい、えみりちゃんゆっくり乗ってね。お昼、マック行かない?ドライブスルーで。おばさん久しぶりに食べたくなっちゃって」

まゆの母親は嬉しそうにルームミラー越しにえみりを見た。

「久しぶりってお母さん、よくポテトのLこっそり1人で食べてるくせに」

「こら、まゆ」

毎日がこんな風に過ぎていくなら、時には怪我もいいかもしれない。
ふと巡ったそんな思いを、えみりは深く飲み込むように深呼吸をした。


また母親の顔が浮かんだ。その笑った顔は、まだえみりが幼い頃に見た母の顔だった。

今はどんな顔をして笑うのだろう。


Silent White Moon

bantage,cast...and pain

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